サーチュイン遺伝子はガン予防できるのか?効果を期待される理由

サーチュイン遺伝子 癌

長寿遺伝子として知られるサーチュイン遺伝子ですが、がん予防に対する効果が期待されています。
しかし一方で、サーチュインの活性化はがんの「治療」にはむしろ逆効果とする意見もあります。

がん予防においてサーチュインが期待される働きや、がん治療においてサーチュインが悪影響と言われる理由を、わかりやすくお伝えします。

記事監修

ルサンククリニック院長
長谷川 佳子(KEIKO HASEGAWA)

北里大学を卒業後、横浜市立大学にて美容外科を研鑽。現在は形成外科医として医療を提供する傍ら、思春期の娘と男女双子を育てるワーキング女医ママとして、クリニック治療からホームケアまで情報を発信している。
ルサンククリニック(LECINQ clinic)

がんと遺伝子の損傷

がんの発生原因のひとつに、遺伝子の損傷があります。

がん発生のしくみ
がん発生のしくみ

細胞の中の遺伝子は、体で発生する活性酸素や、喫煙などによって損傷します。

遺伝子が損傷した結果、がん抑制遺伝子が働かなくなると、細胞が増殖し続けるがん細胞になります。
がん細胞がさらに増殖し続けると、細胞が集まって腫瘍となり、がんが発生します。

なお、損傷の種類にはDNAの書き変えや塩基配列の欠損のほか、DNA自体は変わらなくても細胞の使われ方が変わってしまうエピジェネティック変異があります。

癌の防御システム

人間の体には、がんに対するの防御システムがいくつも働いています。

DNAの損傷からがん細胞が発生するまでに、たくさんの防御システムがある
がんの発生と防御システム

遺伝子の損傷を防ぐ

1つ目は、遺伝子を傷つけないように細胞を守る仕組みです。
遺伝子は、体内で発生する活性酸素や、外部からの紫外線、喫煙、放射線、化学物質などが原因で傷つきます。
これらを防ぐために、活性酸素の発生を抑制したり、紫外線や化学物質を体の内部まで浸食させない仕組みがあります。

損傷した遺伝子を修復・除去する

2つ目は、損傷した遺伝子を修復・除去する仕組みです。
がん細胞は体内で毎日3000〜5000個もの数が生まれていますが、遺伝子を修復・除去する仕組みがすぐに対応します。
欠損や損傷によって修復不可能となった細胞は、アポトーシスという仕組みで体から除去されます。
また、エピゲノム情報が読み取れなくなった細胞は、サーチュインによって正しく調整することで再びエピゲノム情報が読み取れるようになります。

エピゲノム情報とは

細胞の使われ方を決めている情報。
肺の細胞が肺として機能するためには、それぞれの細胞が肺のエピゲノム情報を常に保持しつづけなければならない。
使われ方の情報を失うと老化細胞となり、老化細胞が増えると機能が衰える。

>>エピゲノムについて詳しく知る

発生したがん細胞を除去する

3つ目は、発生したがん細胞を除去する仕組みです。
がん細胞は、血液を流れるマクロファージやキラー細胞などの免疫システムによって攻撃され、除去されます。

これらの免疫システムは、年齢とともに機能しなくなっていきます。
がんの原因が増えたり、防御システムが働かなくなったりして、バランスが崩れるとガンが発生します。

サーチュイン遺伝子がガン予防に期待される理由

サーチュイン遺伝子とがんのメカニズムは密接に関わっており、がん予防に大きな期待が寄せられています。

サーチュイン遺伝子を活性化することで

  • オートファジーを促進して活性酸素の発生を抑制
  • DNAの修復が活発になる

ことが予想されるからです。

オートファジーが活性酸素を抑制

オートファジーが活性酸素の発生を抑制

DNAを損傷する原因となる活性酸素ですが、オートファジーによって発生が抑制されると言われています。
活性酸素を発生させるのは古いミトコンドリアですが、オートファジーは古いミトコンドリアを新しくリサイクルします。
新しいミトコンドリアは活性酸素を発生しにくいので、がんの予防にもつながると予想されています。

サーチュイン遺伝子がエピゲノム情報を修復

サーチュインが損傷DNAを修復

サーチュイン遺伝子は、活性化することでエピゲノム情報を調整する機能があります。
傷ついた遺伝子をすぐに修復する力が強くなるので、がん細胞の発生を抑制することが期待できます。

がん治療には悪影響も

サーチュインの活性化はがん予防に期待されていますが、一度がんになってしまった後のがん治療に対しては、マイナスに働く側面が指摘されています。

一度がん細胞ができると、がん細胞は増殖のためにエネルギーを必要とするため、オートファジーの機能を乗っ取りエネルギーを集めてしまうと考えられているからです。

サーチュインや空腹によって、がんが発生した後にオートファジーを起こすと、逆にがん細胞の増殖を促進させてしまう可能性があります。

がん治療では、がん細胞の栄養の供給を断つことで細胞を死滅させる方法もあるので、この仮説が正しければオートファジーはがん治療に逆効果になります。

実際に、癌の治療薬としてNAD+を減らす薬も開発されているほどです。
参考:NAD Metabolism in Cancer Therapeutics

サーチュインとがん予防のまとめ

サーチュイン遺伝子の活性化は、がん発生を予防する効果が期待されています。
しかし、増殖するがん細部にエネルギーを供給してしまう恐れもあるため、治療にはむしろ逆効果とする見方もあります。

サーチュインの活性化によって活性酸素の発生が抑制されれば、がんの予防だけでなく肌質の改善や体調の改善などが見込めます。
定期的にがんの検診を行いつつ、サーチュインを活性化することでがんの予防に役立ててはいかがでしょうか。

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