寒さとサーチュイン遺伝子の活性化について

サーチュイン遺伝子 寒さ

老化の進行を遅らせ、若返りの効果が期待されるサーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)は、適度なストレスが活性化のカギだとされています。
運動、断食、栄養など、サーチュイン遺伝子のスイッチをオンする方法はいくつかありますが、寒さや暑さなどの温熱刺激もその一つだと言われています。

結論から言うと、寒さや暑さによって寿命が延びたことが動物実験では報告されていますが、人間を対象とした研究はまだ進んでいません。

寒さや暑さと、サーチュイン遺伝子の活性化について、これまでにわかっている研究の結果をまとめました。

記事監修

ルサンククリニック院長
長谷川 佳子(KEIKO HASEGAWA)

北里大学を卒業後、横浜市立大学にて美容外科を研鑽。現在は形成外科医として医療を提供する傍ら、思春期の娘と男女双子を育てるワーキング女医ママとして、クリニック治療からホームケアまで情報を発信している。
ルサンククリニック(LECINQ clinic)

サーチュイン遺伝子と寒さ

寒さとサーチュイン遺伝子の関係については、まだ解明されていない謎が多く残っています。

マウスを使った動物実験では、寒さでサーチュイン遺伝子が活性化し、寿命が伸びる可能性が示唆されています。
しかし、人間を対象とした試験はまだ行われておらず、寒さはむしろ寿命に逆効果であるとする見方もあります。

寒さで寿命が延びたマウス実験

アメリカのスクリプス研究所では、遺伝子操作によってマウスの体温を下げ、体温と寿命との関係を調べる実験が行われました。
すると、体温を下げたメスのマウスの平均寿命が20%長くなり、オスのマウスは平均寿命が12%長くなることがわかりました。

サーチュイン遺伝子 寒さ
黒:野生のマウスの飼育月数と生存率
赤:体温を下げたマウスの飼育月数と生存率
赤い線(体温が低いマウス)の方が、長く生き残っていることがわかる
出典:Transgenic mice with a reduced core body temperature have an increased life span

平均寿命の20%延長は、人間に換算するとおよそ7年間の寿命の延長になります。

長寿の鍵は「褐色脂肪細胞」にある?

マウスの寿命が延びたのは、遺伝子操作によって体内にミトコンドリアを多く含む「褐色脂肪細胞」が生成されたことが要因だと考えられています。
褐色脂肪細胞は人間の体内にもありますが、年齢とともに減少することがわかっています。

褐色脂肪細胞を多く持つ動物は、糖尿病、肥満、アルツハイマーのリスクが少ないことが知られており、増やすことができればこれらの疾患も予防できるかもしれません。

褐色脂肪細胞の増やし方は、まだ解明されていません。
しかし、毎日3時間ずつ寒さに晒されたり、運動させている動物は褐色脂肪細胞が増えたと報告されているので、寒い中で運動をすることが効果的だと言われています。

参考:Lipidomic Adaptations in White and Brown Adipose Tissue in Response to Exercise Demonstrate Molecular Species-Specific Remodeling

サーチュイン遺伝子はサウナで活性化する?

サウナのような高温環境がサーチュイン遺伝子に効果があるかどうかまだわかっていないのが現状です。

しかし酵母を使った実験では、長寿の手がかりとなるデータが得られています。
また、サウナは心疾患のリスクを抑えることがわかっており、老化の進行を遅らせる以外のメリットもあります。

高温環境で長生きした酵母菌

LIFE-SPANの著者シンクレア教授(ハーバード大学)が行った研究では、高温環境で飼育した酵母菌が通常より30%長く生きたと報告しています。

飼育温度を通常よりも+7度上げたところ、NAD+の生産が増え、サーチュイン遺伝子が活性化することが確認されました。

このような
NAD+の増加 → サーチュイン遺伝子の活性化
の流れは、空腹や激しい運動をした時のサーチュイン活性化と同じ流れです。

このことから、高温環境はサーチュイン遺伝子を活性化するのではないかと指摘されています。

心疾患を抑制するサウナ

サウナは血行を良くし、健康を改善すると言われています。

体が温まると全身の血管が拡がり、血液の流れがとても良くなります。
血液の流れが良くなると、細胞へ酸素や栄養の供給され、老廃物も回収されるため疲労回復につながります。

実際、「サウナに通う頻度の高い人ほど、死亡率が低くなる」という研究結果がアメリカの医学会雑誌『JAMA』へ投稿されています。

サウナの頻度と心疾患のリスク
死亡リスクの累積値(縦軸)と経過年数(横軸)
ピンク:1週間に1回サウナに入る人
色:1週間に2-3回サウナに入る人
黒:1週間に4回~7回サウナに入る人
サウナ回数が増えるにつれて、死亡リスクが下がっている。
Association Between Sauna Bathing and Fatal Cardiovascular and All-Cause Mortality Events

研究によると、週に4回以上サウナに行くは、1回未満の人と比べて
・突然死のリスクが63%下がる
・冠動脈疾患死のリスクが45%下がる
という結果が報告されています。

サウナのような高温環境とサーチュインの活性化についてはまだ研究中ですが、心疾患などの症状を抑制する働きがあると言えます。

サーチュイン活性化のスイッチ

寒さや暑さなどの温熱刺激が、サーチュイン遺伝子を活性化するかどうか、詳細はまだわかっていません。
しかし、動物実験の段階ではその可能性は十分に示唆されており、人間でも試してみる価値はあります。

寒い中で運動したり、サウナに週に4回以上通うことで、若返りを実感できるかもしれません。

また、サーチュイン遺伝子は寒さだけでなく、運動や空腹でもスイッチがオンになると言われています。
スイッチがオンになるメカニズムも徐々に明らかになっており、特に重要なのが「NAD+の増加」だと言われています。

NAD+の増加には、空腹や激しい運動などの身体的ストレスが必要だとされてきました。
しかし最近の研究では、NAD+の前駆体(素材となる分子)であるNMNを摂取することで、NAD+を増やせることが判明しました。

「いつまでも若々しくいたいけど、激しい運動や断食を行うのは気が引ける・・・」
そんな方は、まずはNMNを試してみるのも良いかもしれません。

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